天孫族考補遺29「再び姓について」追補

天孫族考補遺29「再び姓について」追補

補遺29では、

>>姓(カバネ)とは中央アジアでいう階層ヴァルナではない>>かという着想である。

>> khvarna → kvarna →kabana →kabane との転訛かも

>>しれない、という考えが芽生えたのである。

>>一般にヴァルナはVarnaであるが、中央アジア語では

>>しばしば語頭にkh音が付く。これが中国〜東アジアへ

>>行くと、‎kh音は単純にk音が抜けh音が語頭になったり

>>する

と述べて、ヴァルナと本邦の階級制について論考した。

しかし、

>> 中央アジア語ではしばしば語頭にkh音が付く。

と言及したが、これを論証していなかった。

但しこれを論証する為には、月氏語・ガンダーラ語について、より深い理解が必要となるが、これは残念ながら未だ言語学的に明確にされていない。

それは、鄯善(いわゆる楼蘭)文書や于闐文書などのカローシュティー文字で書かれた“月氏語文書”についての研究が進めば、もう少し明らかにされると思う。→※カローシュティー文字については後注を参照。

もっとも

>>中国〜東アジアへ行くと、‎kh音は単純にk音が抜けて

>>h音が語頭になったりする

と言ったが、そも月氏語にはha 音は存在しないので、kha となっているのでもあろう。

厳密な言語学的な証明は出来ないので、ここでは日本語の内に接頭辞kh(a,o )音の痕跡を、幾つか例証として挙げるにとどめたい。但しあくまでも、私の試論である。

①蕪 カ-ブラkha-bra

かぶ(ら)とは、油菜科の菜類の株根である。春の七草の鈴白である。

この食菜は、欧州種と亜細亜種があるが、アジア種の方はアフガニスタンが原産といわれる。(厳密には亜欧の二元論と、地中海沿岸原産がアジアにも伝わったという一元論がある。)

本邦ではカブラとカ音が付いているが、漢字の蕪を見ると漢音ではブであり、ラテン語ではbrassicaで、近縁種にblocolyとかbeats などもあるので元はブラ(根が珠状にブラ下がっている??冗談)かと思われる。

されど月氏語では、語頭にkhaが付いて、kha-bra=カブラとなっていると推理する。

もっともアブラナはカブラナだとも言い、これはどちらが先行しているのかは不明である。

本邦には上古から存在し、救荒食物として評価された。持統女帝が栽培を奨励したと伝わる。

②傘 カサ←カ-サンkha-san

傘の文字は漢音でサンである。カブサリがカサの語源だという説があるが、これはかなり苦しい。

サンに接頭辞のカが付いたものではないかと推測する。

被る方の笠(音はリュウ)は、傘と同じ訓である。こちらはカブサリから来たのかとも想像される。訓が同じ為、傘と笠は古来より混用された。

またカザス(翳す)という言葉があり、これは傘を差し掛ける=カササシであるから、ここからカサの名がうまれたとの説もある。しかしこれは逆で、傘が先に在ったから傘差し→翳すの語に成ったのである。

もっとも、イラストは和傘で、またその元の唐傘も通常は

竹の骨に紙や油紙を貼ったものである。しかし我が国に紙が渡来したのは遣唐使によってであり飛鳥時代の事である。また紙が西域に伝来したのも唐の時代らしい。だから

傘は元来は木や竹の骨に絹布を張ったもので、雨対策ではなく、王侯貴族に差し掛けて日除けにしたものである。

この様な日傘はかなり早く(発祥地の)中国から西域に伝来していたと思われる。貴人に翳す傘=差掛けは、本邦でも上古から用いられていたと考えられる。伊勢神宮等の遷宮祭において、ご神体の移動の際には、この差掛けがご神体の入った筐体の上に翳された。これらは布を張るのではなく菅(スゲ)が用いられた。これを作ったのが笠縫氏である。伊勢式年遷宮と大嘗祭に用いられるのが菅御翳(すげのおんさしは)と菅御笠(すげのおんかさ)である。

③ カビ(黴)←kha-bi

黴の漢字は音ではビ(もしくはバイ)である。これはビ1音だと識別し難いので、接頭辞を付けて呼んだのか?(周辺国インドやタジキスタンなどでは何と言うのだろう?ヒンドゥ語ではढालना khan-na-baiというらしい。3音節目はバイだが、中国でバイと読むのはカビの事ではない様だ。)

◯かすがい(鎹)カ-スガイ

漢字は国字なのでこれから語源の類推はできない。

しかしこの国字は金偏に迭(テツ)の旁になっている。国字なので音読みは無い。元来は和建築道具のコの字型大釘のこと。多分本邦の大工が発明したものだろう。

当て字で“枷鎖交い”がある。鎖をかけるの意味である。

語源は、① 鎖交い(スガイ)で、そも鎖を掛けるの意味からだというもの。

②“番う”(つがう→スガウ)為に用いるもの。

だからこれにkha の接頭辞が付いてカ-スガイ、だという推論をした。

この道具は我が国では上古から用いられた。奈良時代員弁族の用具でもあった。(但し宮大工は用いていない。)

だからこれも接頭辞カの付いた名詞かと思ったが、カスガイは鉄器なので、鉄が豊富になってからの産品だから、天孫族が中央アジアにいた頃には、未だ鉄器時代になっていなかったと思われるので、古来の言葉には入らない。しかし、接頭辞カの使用を伝来していた和族が、この道具の名称にスガイではなく、カ-スガイとしたのかもしれない。でなければ、一部識者の云う“枷鎖交い”が語源なのだろうか?

④米kho-me

元来はyone である。kho-yone→ kho-meに転訛したものか?

ヨネが何故コメになったのか?これは古来不思議とされて来た。

米田・米山など(米原;マイバラを除き)ヨネである。

小ヨネ→コメの転訛だという説がある。小ヨネとはいわゆるジャポニカ種の事で、インディカ種が大ヨネであるのに対して云う言葉だという。倭種の方が印種より美味なので、日本では倭種が残り、米はコメの読みのみとなったという説である。

しかし果たして上古の日本にインディカ種は入っていたのだろうか?

それよりkho-yone→ kho-yne→ kho-me の方が蓋然性が高いと思う。又はkho-mai →kho-me だろうか?(中国では、

mei だと思う。ならkho-mei →kho-meであろう。)

また通説では天孫族が稲に出会ったのは、南韓の任那加羅に入ってからで、洛東江のデルタ地帯での濊族の稲作地帯を版図にしてからだという。だが、私は天孫族が崑崙山脈南麓に進出していた頃、この時代は温暖期でありタリム盆地も崑崙・天山の雪解け水の大河で肥沃な緑地帯であった事を「天孫族考」で繰り返し述べて来た。その頃崑崙南麓のデルタ地帯に、長江や瀾滄江上流の米作が(後世の茶馬古道経由で)伝わり、白馬族が栽培していたのではないかと推理した。

後漢書に崑崙の蘇毗族が精絶国の食糧を奪った事が述べられているが、この食糧も小麦や大麦ではなく、デルタの精絶国の米の備蓄を強奪したというのではないかと想像している。

この頃すでに天孫族は稲の稔りを米kho-meと呼んでいたのではないだろうか。もう米の旨さを知っていたのだと思う。

処で昨今のロシアのウクライナ侵略の記事との関連で気がついたのは、ウクライナの地名で、KharkivハルキウとKhersonへルソンの2語には、khの接頭辞が付いていて、英語読みではk音は黙音になっている事。だがウクライナ語では、Харків・Херсонなのでカルキウ・ケルソンに近い発音かと推量される。

ウクライナ南部は中世にはクリミヤ汗国というタタール(モンゴル)系の民族の版図だったので、中央アジア的なkhの接頭辞が残っているのかと思量される。

付記

前回補遺29で“khan→ han (汗)”について述べたが、この汗khanは、君もしくは神が転訛したものであり、接頭辞カとは無関係ではないか?との疑問を持つ向きもあろうかと思う。

しかしこの神kha-mi こそ、タジク語の神霊を表すmy に接頭辞kha が付いたものに他ならない。

このmyはミトラ(もしくはミソラ)myth-ra (raは太陽)のmyth(西伝してミステリーmysteryなどの語源になった)である。このkhami →kimi (君、王)やkham (汗)との転訛が生じたものと思われる。

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※  注)  カローシュティー文字

2世紀後半に入ると、後漢末の動乱(いわゆる三国時代)のため、西域への中華王朝の影響力は低下した。このため漢籍に鄯善国の情報が求められなくなるが、3世紀前半に入ると鄯善国自身が記した文書史料が豊富に出土するようになる。

これらはプラークリット語の一種である;ガンダーラ語をカローシュティー文字で記したものである。

こういった文書の様式や、その中に登場する王号がクシャーナ朝のそれに類似することなどから、鄯善国(楼蘭)がクシャーナ系の移住者によって征服されたという説もある。

実態は全く不明であるが、中華王朝の影響力の低下やシャーナ朝の隆盛に伴って、楼蘭が西方の文化の影響を強く受けたことが推察される。

このカローシュティー文字文書の解析から、この頃の鄯善国がロプノール周辺から精絶国に至る領域を維持していたことが知られている。一方で漢文で書かれた実用文書も多数発見されている。(比較考証の結果が待たれるところである。)

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